たましい調律

この物語には、これから大きなことを成し遂げたい人が知っておくべき内容が書かれています。

私はこれまで医師としてたくさんの患者さんを診察、治療してきましたが、人の中にあるストレスが、その人の体を壊す様子をたくさん見てきました。その逆もあり、ストレスがなくなった途端に体が治るという事象も見てきています。人間の体の不調にはストレスが大きく関わっています。

では、人のストレスとはどこから来るのか? なぜ大きなことを成し遂げたいと思っている人に限って、ある日突然、気づかないうちに大きなストレスが自分を襲い、体を壊すなんてことが起こるのか? ストレスから来る体の不調は、その人にとって何を意味しているのか?

長年、医師として医療の現場で目の当たりにしてきた実体験から見えてきた、高次元の世界、魂のレベル、そして三次元の世界がどのようにつながり、人間の体に影響を及ぼしているのか? その相関性に迫るのが本書です。

この相関性が理解できたとき、特にこれから大きなことを成し遂げたいと思っている人にとっては、さまざまな場面において問題がクリアになったり、ヒントになったりするはずです。ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

物語は、とあるストレスを抱えた体を壊した一人の男性が、人生の分岐点で、どんなことに悩み、どんな行動をし、そして体調とその後の人生をどう好転させていったか? という小説形式の物語で進んでいきます。

それでは始めます。

第一章


「生き方を見直すための病」

瀬戸康介(38歳)はドバイにいた。友人に無料で海外旅行をプレゼントされるという幸運を得たためだ。

でも、康介はホテルから一歩も出られない。理由は先月、甲状腺の病気、バセドウ病にかかり、常に心拍数が120を越え、ドバイの暑さに耐えられないためだ。

そんな理由から、ホテルのラウンジで一人、ビールを飲んでいた。その時、日本人らしき人がラウンジに現れた。慣れない中東、一人旅、しかも病気の真っ最中の康介は、同じ日本人を見つけて思わず話しかけずにはいられないのだった。

康介
あのー、日本人の方ですか?
前田さん
そうですけど。
康介
良かったあ。こんなところで日本人の方に会えるなんて嬉しいなあ。僕、一人旅で不安だったもので。
前田さん
ドバイに一人旅ですか。これまた優雅ですね。
康介
いや、そういうわけではないんですけど…、瀬戸康介と言います。お名前をお聞かせいただいてもいいですか?
前田さん
前田です。
康介
前田さんですね。せっかく日本人同士会えたので少しお話ししませんか?
前田さん
もちろんいいですよ。

そういうと、前田さんはグラスワインを注文した。

前田さん
そんなことより康介さん、お体どこか調子が悪いんですか?
康介
え? ど、どうしてそんなことがわかるんですか?
前田さん
いや、このラウンジちょっと寒いくらいなのに、汗をものすごくかかれているので。
康介
いや、そうなんですよ。実は今、ものすごく暑いんです。実は先月、バセドウ病になりまして…。
前田さん
なるほど。そういうことでしたか。まだバセドウ病になったばかりで甲状腺ホルモンがコントロールできていないのでしたら、このドバイの暑さはきついでしょうね。
康介
ん? どうしてそんなに詳しいんですか?バセドウ病について。
前田さん
私、医者なんですよ。
康介
お医者さんですか。どおりで。お医者さんから見ると、今の僕はやっぱりおかしく見えるんだなあ。
前田さん
でも、また、そんな病気になったばかりで、なぜドバイにいらっしゃったんですか?
康介
実は僕、大手住宅メーカーで住宅の営業をしてるんですけど、先日、この病気になってしまって…、ドクターストップがかかってしまって、会社から1カ月の療養を命じられまして…、それで時間ができてドバイに来た感じです。
前田さん
え? 会社から療養を言われてるのにドバイなんかに来て大丈夫ですか? ただでさえ暑いのがつらいだろうに。
康介
いやあ、想像以上の暑さでしたね。おかげでホテルの外に出られません(笑)。でも、この旅は僕にとってとても重要なんですよね。だから絶対にドバイに来なければいけなかった。
前田さん
重要というと?
康介
こんな病気になってしまって、今後、会社にいられるかもわからない。でも生活はしていかないといけない。あ、僕、新婚なんですよ。まだ子どもはいないんですけどね。そんな時、友人から最新のネットワークビジネスをやらないか?って誘われまして。「おまえ営業だしいける!」って。なんかノルマを達成したら、中東でラクダを乗り回して王族みたいな生活が待ってるって言われたんですよ。
前田さん
ラクダですか…。は、はあ。
康介
ラクダを乗り回す生活なんて最高じゃないですか。王族みたいで。それで友人が、そのネットワークビジネスを運営している本部のドバイの会社を訪問してみないか?って誘ってくれて。その会社を見て、やるかやらないかを決めてみたら?って言うんですよ。しかも無料で招待してくれるって言うから、病気にもなったし時間もあるし、渡りに船かなって。明日、その本部の会社を訪れる予定なんですけどね。
前田さん
そ、そんな理由でドバイまで?
康介
そんな理由?
前田さん
いや、すみません。普通に考えたらちょっと怪しい感じがしたので。
康介
何が怪しいと言うんですか?僕はチャンスを掴みに来たと言うのに。
前田さん
なるほど。ちなみに康介さんをドバイに招待してくれたのは誰なんですか?
康介
友だちです。
前田さん
お友だちですか…。お友だちは康介さんの病気のことを知っていて、ドバイに招待されたんでしょうか?
康介
もちろん知ってますよ。なんせその友だちとゴルフをしていた時に熱中症になって倒れたことで僕の病気がわかったんですから。5月で快適な気候なのに、なぜか僕だけ熱中症になって倒れてしまって、それでなんかおかしくない?ってなって。病院に搬送されてそこでバセドウ病とわかったんですよ。
前田さん
5月にゴルフをやっていただけで熱中症になるということは、代謝の状態がかなりおかしいですね。なるほど。それでご友人は康介さんの体の状況を知っていたわけか…。なのにそのご友人はそんな康介さんをこの暑いドバイに招待したと。
康介
そんな僕だからこそでしょう。体を壊して会社をクビになりそうな僕に、新たなチャンスだと新しいビジネスを紹介してくれた。友だち思いのやつです。
前田さん
そうでしょうか?ドバイは日本と違ってかなり暑い。そんな暑いところに今の康介さんが訪れたら、それこそ熱中症どころの話ではなくなることは想像つくと思うんですが。
康介
それよりも僕をなんとかしたい、もうけさせたいと思ってくれてるんですよ。
前田さん
うーん、私は医師なので、今の康介さんをドバイに招待するなんてできないなあ。まして友人であれば、5月に熱中症で倒れた友だちを暑いとわかっているドバイに連れてきたりするなんて…。
康介
いや、だからそれよりも僕をもうけさせたいと思ってくれているんでしょう。
前田さん
そうでしょうか。
康介
何が言いたいんですか?
前田さん
いやいや、医師としては今の康介さんは儲け話よりも、体のことを真っ先に考えた方が良いと思うだけです。もし僕が康介さんの友人ならそう思うと思います。
康介
前田さんもかかりつけ医や妻と同じことを言うんだな。「とりあえず安静にしてろ!」と。でも休んでる場合じゃないんですよ!僕は生きていかないといけない!会社にいられなくなるかもしれない状況で、なんとかして稼がないといけない!自分の体のことよりもどうやったら稼げるか、そっちの方が大ごとなんだ!その切なる思いを友だちはくんでくれて、こうやって僕に新たな稼ぎ方を勧めてくれている。僕にとっては救世主ですよ。本物の友だちだ。
前田さん
康介さん、甲状腺の病気の場合、各臓器が活発化するんです。そうすると熱中症もそうですけど、精神的にもずっと興奮状態になって冷静な判断ができなくなりがちなんです。だからそういう状態の時は、重要な決断はしないのが賢明です。かかりつけの先生も奥さまもたぶん、今の康介さんは普通じゃないと思って安静を勧めたんだと思いますよ。今回のドバイ行きを奥さまは反対されたんじゃないですか?
康介
絶対行くなって言ってましたよ。でもどうして反対するんだ?って。僕は家族のことを考えて行動してるのに。
前田さん
私が康介さんの奥さんでも反対すると思いますよ。ラクダに乗って王族のような生活が待っているからと、ドバイに招待する友人の誘いは。とても冷静な判断ができているとは思えない。
康介
僕が冷静な判断ができていないと言いたいんですか!
前田さん
ええ。目の充血もすごいし、顔つきもかなり興奮状態に見える。
康介
僕を薬物中毒者扱いするんですか!
前田さん
ある意味そうかもしれませんね。多分今の状態は通常時の康介さんではない。
康介
いい加減にしてください!あなたに何がわかるんですか!
前田さん
私は医師としての意見を申し上げているんです。たぶん、かかりつけの先生も奥さまもおそらく、康介さんのためを思っている人だと思いますしね。あと、多分ですが、康介さんってはじめてなんじゃないですか?
康介
何がですか!
前田さん
ストレスで体を壊されたのは。
康介
は、はじめてですけど。なんでわかるんですか?
前田さん
ストレスがかかって体を壊した時、無理に決断や行動をすると良いことはないからです。だから一度、そういう痛い目に遭った人は、今の康介さんのような行動は取りません。でも今の康介さんは、自分から痛い目に遭いに行っているようにさえ思える。だからはじめてかなと。ストレスで体を壊している時というのは、自分が思っているよりも体に負担がかかっているんです。まして今の康介さんは限界を超えて体に来てしまっている。それが今の康介さんです。
康介
だからこそチャンスでしょうが。
前田さん
今の康介さんにチャンスはつかめません。まずは体を直すのが先。ドバイの気候は今の康介さんには過酷すぎる。早く日本に帰って体を休めた方が良い。奥さんのためにも。
康介
妻のため?
前田さん
そう。康介さんの体の心配をしている奥さんの反対を押し切って、わざわざもっと体調が悪くなりそうなドバイに行ってしまうような人についていきますか?今だって奥さんは康介さんのことを心配しているはず。康介さんだって、奥さんとの関係が悪くなるのは望んでいないんでしょう?
康介
望んでませんよ!妻のためにここに来てるみたいなものですから。
前田さん
だったらなおさら体を休めた方が良い。今、無理をしたら何もかもダメになるかもしれませんよ。

前田さんから妻との関係がダメになるかもしれないと話された時、康介はわれに返ったような感じになった。

康介
そうか…、今の僕は冷静な判断ができていないのか…。気づけば初対面の前田さんに熱くなってしまっているし…。すみません。
前田さん
そういう病気ですからしょうがないですよ。ちなみにどうして甲状腺の病気を発症したのか?心当たりはありますか?何かが知らず知らずのうちに康介さんにとっての強烈なストレスになったとか。
康介
もうそれはわかってるんです。僕は2年前、起業をしようと住宅メーカーの営業を辞め、東京の飲食店へ修行に出たんです。
前田さん
住宅営業マンを辞めて東京の飲食店で修行ですか?
康介
ええ。飲食店をやりたいというのが僕の夢ですから。それで1年ぐらい修行していたら父の会社が倒産しそうになって、今すぐ戻って来いと言われたんですね。
前田さん
康介さんのお父さんは会社を経営されているんですね。
康介
はい。小さな会社ですが。それで飲食店を辞めて、僕は地元に戻り父の会社の再建に取り掛かりました。大変でした。その時、父の会社は手形を振り出していたから、あと3カ月で会社がつぶれるという状況になり、お金を用意するために自宅を売ったり、社員全員解雇したり、銀行に返済を待ってもらったり、いろいろとやってなんとか倒産を免れた。
前田さん
康介さん、大変な人生を歩まれているんですね。
康介
ま、まあ、そうですかね。それで会社はなんとか倒産を免れて、父も母も、仕事を失うことなく生活もしていけるまでにはしたんですけど、とても僕の給料が出ない。そんな時、妻と結婚をし、夫婦で生活をしていかないといけないってことになり、だから、今の会社に戻してもらったんです。一応、住宅の会社ではトップセールスでしたし、僕が戻りたいって言ったら会社はすぐに戻してくれました。でもこれがいけなかった…。
前田さん
なるほど。起業するために東京まで行って修行したのに、生活のためだからと、元の会社に戻ることは康介さんにとってストレスだったんですね?
康介
その通りです。生活のためには住宅を売らなければいけない。でも、本当は売りたくない自分がいる。また前のようにたくさん家を売ってしまったら、起業する夢は遠のいてしまうからです。そんな迷いを抱えていたら、熱中症でぶっ倒れた。それが今までの経緯です。
前田さん
熱中症で倒れる前に体調に変化はありませんでしたか?
康介
いや、気づかなかったかな。でも振り返ってみれば、すぐに息切れしたり、疲れやすかったり、怒りっぽかったりと、思い当たることはありましたね。
前田さん
おそらく肉体の限界だったんでしょうね。「もう限界だよ」という警告だったのかもしれません。今回の病気の発症は、康介さんの生き方を見直すきっかけになる良い機会だと思いますよ。今は立ち止まることが必要です。と。
康介
なるほど。自分で話していても、知らず知らずのうちにストレスがかかっていたんだなと思います。でもお金を稼がないと妻を養っていけない。そのためには住宅営業に戻るしかなかった…。
前田さん
そして今、またそのお金を稼ぐために、違う決断をしようとしている。奥さんの反対を押し切って。
康介
た、確かにそうだ。もしかしてそれをしてしまうと、またさらなるストレスになるのか…。
前田さん
体が警告を出している時の決断や行動は気をつけた方がいいですよ。私はその決断を誤って体を壊したり、亡くなってしまった人を医師としてたくさん見てきましたから。
康介
亡くなる?
前田さん
ええ。最悪そんなことも起こり得ます。だからこそ、今の康介さんの次の決断は重要だと思います。その決断次第で、康介さんのこれからの人生が成功するか失敗するかが大きく変わってくるはずです。

康介はこの時、突然泣き出した。自分でもなぜ泣いているのかわからないまま、とめどなく涙が溢れ、そしてこの時、康介は自分が確かに病気であることをはじめて認識した。

康介
すみません…。僕、病気だったんですね。まさに情緒不安定だ。気づけば泣いているし。前田さん、初対面なのにいろいろと助言をいただいてありがとうございます。僕、大事なものを失うところでした。
前田さん
医師としてアドバイスをしたまでですよ。お体を大切になさってください。明日のそのネットワークビジネスの集まりには参加されるんですか?私としてはあまり外を出歩かない方が良いと思いますが…。
康介
一応、出席しようと思っています。友人がドバイまで招待してくれましたし、明日、その友人もその会に出席する予定なので。
前田さん
そうですか。くれぐれも暑さには気をつけてくださいね。

康介はホテルのラウンジを後にして、前田さんと別れた。

しかし次の日、康介は友人に電話を入れ、会合への出席をキャンセルした。そして昨日と同じようにホテルのラウンジに行ってみると、昨日と同じ席に前田さんが座っていた。

康介
前田さん、昨日はありがとうございました。
前田さん
あれ?例の会合は?
康介
ああ、キャンセルしました。昨日一日考えて。
前田さん
それは良かった。体を大事にしないとですね。

その時だった。ホテルのラウンジに鬼の形相で乗り込んできた一人の男性。康介の友人、金子だった。

金子
おい!康介!どういうことだ!ドタキャンなんてしやがって!

ホテルのラウンジ内には大きな声で日本語が響き渡り、不穏な雰囲気が立ち込めた。

第二章に続く

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